『トンカツ定食』

2012/02/01(Wed)

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機能性に優れていて
かつ見てくれのよい通勤鞄を探してるねんけど
なかなか見つからんよ。

京王百貨店に行ったら
4万円ほどでほぼ納得のいくものを見つけたのだけど
ちょっと考えを改めた。


以下、すこし昔に書いたものを。


***


かつて東京に出てきたばかり、東京KID BROTHERSに居た頃
わたしと、わたしの周りはとてつもない貧乏人ばっかしやった。


KIDは商業演劇の劇団だったから、稽古がフツーに朝から晩まである。

稽古がなくても稽古場に居ることが常。
公演の手伝いをしてたり劇団の稽古を見学していたり。

入って二年は劇団からお給料が出ないから
もちろんバイトしなきゃ生活出来ないんだけど、
そんな稽古場に入り浸りの毎日、ろくなバイトが出来なかった。


わたしは夜、暇を縫ってクラブのホステスのバイトをしてたから
お風呂とエアコン付きのワンルームマンションに住んでいるという
比較的余裕のある暮らしをしているほうだったけど

風呂なし共同トイレ家賃3万、なんて部屋に住んでて
「電気止まった」「水道止まった」なんて言う子はザラだった。
家賃が払えなくてアパートを追い出され、稽古場で寝泊まりしてる子も居た。



かくいうわたしも、余裕があるとはいえ
贅沢をするお金などまったくなかった。

公演前など数ヶ月バイトに行けず、
稽古場に行く電車賃がない。
今日の食費の数百円がない。


そん頃は、近所の八百屋で
よくキャベツの葉っぱとか売れ残りのモヤシを貰った。

キャベツの硬い葉を千切りにして、トンカツソースを掛けて白米を添えて
とんかつ定食を食べた気になっていた。
もやしを塩胡椒で炒めて、「牛肉もやし炒め牛肉抜き」とか言って食べた。

これが不思議。
トンカツソース掛けてキャベツを食べると、ほんとうにトンカツを食べた気になれるんだ。


役者仲間とピザの食べ放題なんかに行こうもんならたいへーん!
みんなポリ袋持参で入店、
これでもかってくらいピザやらポテトやら袋に詰めて持って帰って
翌日一日の食事にしたものだ。(※やってはいけません)


電車賃が無くて自動改札をハードル超えしたこともあれば、
鹿島田から稽古場の田町まで、暴風雨の中チャリで通うこともあった。


ほんと、
そのくらいお金がなかった。


ほんと、この飽食のニッポンで
こんなに食に飢えたひとたちがいるのだろうかって、これが実在してた。



でも、
今思えば

あの頃、お金がないからって
さしてそれを不自由だとは思わなかった。


同年代の女の子は、ブランドもののバッグを買って
海外旅行に行って、お洒落なイタメシ屋さんでご飯して

でも、そんな人達を羨ましいとも思わなかった。


ブランドものの鞄なんてこれっぽっちも興味なかったし
洋服も靴も欲しいと思わなかった。


バイトでホステスをやっていて、社長様やおじさまに
カバンや時計を買ってあげようと言われたこともあったけど

「カバンなんか要らないから、明日のゴハン買ってください」
そんなことを言ったことを憶えてる。


キャベツの千切りにソースを掛けた、トンカツ定食で満たされていた。

おなかは満たされなくても
心は満たされていた。



今も決して贅沢指向ではないけれど
人並みの生活が送れるようになって

やれカバンが欲しいだの
靴が欲しいだの
やれ旨い酒が飲みたいだの


そう思う度、
生活が豊かになった分、心が貧しくなったんじゃないかって思うことがある。


時々、あの頃の自分に戻りたいと思う。
夢だけ食って満たされていたあの頃に。








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