今年は厄年か!ってくらい悲しいことツラいこといろいろあったけど
この間、今年イチバンの、つーか 舞台人至上イチバンの修羅場を経験した。
その時現場に居合わせて半分状況を知る森に
昨日、酒を飲みながら声を荒ぶらせて話した。
まだ思い出すたび震える。
*****
先月、友人の芝居の手伝いに4日間劇場に通った。
100キャパの劇場で、
えみちゃんが主宰、本人と澄華が出演。そして裏方には韋駄天。
過去わたしの芝居に立った3人、よく知った顔であり
大先輩方の中劇場公演と違って神経をすり減らすようなピリピリ感もない。
わたしの役割は主に受付業務だった。
開場前にチケットの整理をしてお客様をお迎えして、
チケットとお金のやりとりをする。
受付をしていると「ざちょーさん!」と声を掛けられ、懐かしいお客様とも再会。
うわー嬉しい。
まじまんや森、Prologueのメンツも観に来た。
150人以上のキャパだと受付は戦争だけど、小劇場の100以下はそうでもなく
二人で受付を回しながら、初演から本番を見せて貰えた。
そんなかんぢで4日目まで進行。
事件は4日目、楽日の昼公演中に起きた。
役者が足を痛めたっぽいから、湿布を買ってきてほしいと言われ
本番中湿布を買いに走った。
とはいえその時は、捻ったのかなぁ。大丈夫かなぁ、
大楽の夜公演(今日の夜公演)は観れたらいいなぁ、くらい呑気なことを思ってた。
湿布を届けると、役者の負傷はただならぬ様子らしく
やっとやっと舞台で立っているとか。
それも本番中の気力ゆえだろう。
マチソワの間、二時間くらいの空き時間になんとか病院に行かせたい、ってことで
韋駄天が付き添って病院に行くことになった。
昼公演終了後、楽屋口に救急車がつけられた。
ちょうど昼公演を観ていた森が劇場から出てきたので今の惨状を軽く話す。
とはいえ長話をしている暇もなく、森を見送り急いで夜公演の準備を始めた。
夜公演に間に合うんだろうか。
舞台に立てるんだろうか。
そんな心配をしつつ、急ぎでチケットの準備をする。
そして、
お金を扱っていて手が離せない時に、舞台監督に場内に入るよう言われた。
「今ですか?これが終わってからじゃダメですか?」
「今です」
舞台前に行くと
役者が舞台に集合していて、
スタッフさんとえみちゃんが円になっていた。
えみちゃんが言った。
「みゆきちゃん、演れる?」
ふあっ???????!!!!!!
でもな、
一瞬にして悟ったわ。
今、最悪の事態が起きようとしている。
この役をカットしたらストーリーが成り立たない
当然他の手段も模索しただろう
これは最悪の事態、公演中止を避けるための最終手段なんだ。
出来るとか出来ねーのお話じゃなくって、やらなければならないんだ。
「本番は2回通しで観た。
ストーリーはアタマに入ってる」
「でも台詞はひとつも憶えてない
他の方が合わせてくれるなら!」
「よし!!!
みゆきちゃんに台本持たせて時間の限り立ち稽古しよう!」
えみちゃんが叫ぶ。
「よろしくお願いします!!!!!!」
役者が叫ぶ。
台本を渡され袖に連れていかれる。
「みゆきさんに全力で合わせますから!」
「出はけは僕らが誘導します!」
マジか。
これマジか。
台詞をひとつも憶えていないのに本番の幕が開いた、って悪夢を見る役者諸君は多いと思う。
それがまさにリアル。
台詞いっこもしらねーのにこれから板に立つ。
とても現実では起こり得ないことが目の前で起きてる。
そんなん通常の神経だったら2000%無理に決まってるけど、そん時アタマの中は
できないじゃない
やるしかない
これだけだった。
確かガラスの仮面にまったく同じようなハナシがあった。
北島マヤは台詞をひとつも知らず見事最後まで舞台を演り切った。
わたしは北島マヤレベルのことをやらなければならないのか、
って、あれはマンガや!
これ、演り切れたらわたしは北島マヤレベルの役者じゃねーか!
紅天女やれるじゃねーかwwwwwww
って、その時はそんなこと思う余裕あるはずもなく。
後でぼんやり思ったことだ。
「みゆきちゃんのやりたいようにやって!外国人って設定も変えていい」
その役はカタコトの日本語を喋る外国人の少女だった。
瞬時にそんな役作りをしてうまくこなせるのか。3秒考える。
「関西弁でいきます!」
「オッケー!彼女は関西から出てきた世界を旅する少女!」
その場でそんな設定になった。
「台本の○○ページから!」
「みゆきちゃんの用意が出来たら言って!」
えみちゃんが叫ぶ
「上手(かみて)のここから登場します!」
役者が誘導してくれる
台本を持ったまま舞台に出る。
そして台詞を追って絶望する。
見事なまでに、カタコトの少女の台詞は全部カタカナ。読みにくっ!!!!!
これを読み取って、関西弁でアウトプット。
無理や!無理や!脳内タイムラグが起きるwwwwwwww
「えみちゃん!カタコトのままでいい!」
なんとかカタコトを更にカタコトで1シーン終える。
「次台本の○○ページから!」
「ちょ!!!ちょっと待って!!!ここ何のシーン?!」
慌てて台本を目でさらう。
「OK解りました○○と遭遇するシーンですね!」
さっきは二人とのやりとりだったけど、演者が一気に5人に増えた。
台詞があっち行きこっち行きそっち行き、
ホンから目を離して役者の動きを追っていると自分の台詞。
ホンに目を戻すとどこまで進んでるのかわかんない。
でもホン見てたら芝居になんない!
本番は台本もてねーんだ!
わたしの役の台詞が飛ぶ。
他の役者は、わたしの台詞が出てくるのを待つ。
あってはならない間が起きる。その繰り返し。
焦る。
焦る。
演者が芝居中絶対口にしてはならない「ごめんなさい!」が出る。
変な汗やら汁が噴き出す。
こんなブザマな芝居したことねーよ!!!!!
「えみちゃん!あかん!できん…!」
わたしが叫んだ
「できる!!!!!」
えみちゃんが怒鳴った
できないんじゃないんだ
やるんだ
自分に言い聞かせる
「ホンを追っていたら芝居になりません!
それっぽくついて行きますので、
わたしが台詞を飛ばしても違うこと言っても、どんどん進めてください!」
他の役者にお願いする。
上手い方はわたしが台詞を発しなくても上手く進行して、
それらしい台詞が出るよう誘導もしてくれた。
でも経験の浅い方はそうもいかない。
何度も何度も芝居が止まる。
あかん
どうしたらええねん・・・・・・
この時点で開場(受付にお客さんが入れる時間)は定刻を過ぎていた。
開演は何分押すのか。
代わりに受付に立った方はお客さんにうまく説明してくれているのか
そんな時
客席のドアが開いて、韋駄天に支えられた負傷者が
松葉杖をついて出てきた。
「松葉杖だけど、やります!」
UWAAAAAAAAよかったあああああああああああああ
タマシイの雄叫びを上げた。
代役の役目は終わった。受付に走るとロビーには場内に入れないお客様で溢れ返ってる。
お客さんひとりひとりに開演が遅れる旨をお詫びをしながら、バタバタとチケットの受付。無我夢中。
そして20分押しで本番が始まった。
全てのお客さんを捌き切って、人で溢れ返っていたロビーががらんとした。
そこで韋駄天に「みゆきちゃん、お疲れさま…」って言われて
初めて手足がガタガタ震えてきた。
なんつーおそろしいことをやろうとしていたのか。
やっとそれを実感してきた。
震えが止まらない。
おい韋駄天、ぎゅっとしろ。ぎゅっと。
韋駄天は今回ばかりは嫌がらずにぎゅっぎゅしてくれた。
松葉杖ながら、開演が遅れながらも無事大楽は終了。
バラシ後、打ち上げに向かったけど
とても酒を呑んでヒャッハァな気分にはなれなかったぜ……
打ち上げの席で制作の締めの仕事を手伝い、
日付を超えてそれが終わった瞬間、えみちゃんはその場にくずおれた。
始発まで寝かせておこう。
韋駄天の上着をそっと掛ける。
わたしも修羅場だったけど、彼女が一番修羅場だったに違いない。
ああこれが舞台人至上、最大の修羅場だ。
最悪の事態に備える危機回避法は考えさせられたし勉強にもなった。
けど、コンナケイケンモウシタクナイ。